漢方Q&A - 産婦人科について⑫妊娠合併症の漢方治療とは?

妊娠合併症における漢方治療の注意点は以下の通りです。

1)妊娠貧血:
妊娠中は陰血証で、さらに脾胃虚や気虚が加わった病態です。
妊娠中期の生理的水血症や貧血症は水滞や血虚と考えます。

鉄剤服用困難な症例には漢方薬が有効です。
利水と補血を目的に当帰芍薬散、帰脾湯や四物湯を用い、
脾胃虚には人参湯、四君 子湯、十全大補湯、補中益気湯などを用います。

2)かぜ症候群:
妊娠中かぜを引くと、しばしば長引いたり、重症化する場合があります。
妊娠中は陰血虚証であるので、発汗作用のある麻黄剤を含む葛根湯を用いず、
桂枝湯や香蘇散を用います。

妊娠咳には血虚で、肺が乾き、乾性の咳嗽になるので、
滋潤作用のある麦門冬湯を用います。

アレルギー性鼻炎、あるいは花粉症に用いる
小青竜湯は麻黄を含むので用いず、
苓甘姜味辛夏仁湯や虚証に用いる麻黄附子細辛湯を用います。

3)便秘:
妊娠中の便秘は虚証の常習性便秘であり、
桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯や小建中湯を用います。

瀉下剤の大部分は慎用薬に属し、また大黄や芒硝などを含む漢方薬は、
子宮筋の緊張や骨盤内臓器の充血を起し、流・早産誘発すると考えられます。

4)膀胱症状:
腎虚や脾胃虚を目標に、当帰芍薬散、猪苓湯や五淋散を用います。
また、尿閉には水滞と補気のため補中益気湯、五苓散や猪苓湯合四物湯などを用います。

5)痔疾:
妊娠中の痔疾は骨盤内うっ血状態である瘀血によりますが、
妊娠中は駆瘀血剤を用いるべきではありません。
升降概念からみると痔疾は降証に属するので、升麻や当帰を含む乙字湯や補中益気湯を用い、
痔出血には芎帰膠艾湯や三黄瀉心湯を用います。

6)その他の症状:
①腰痛は腎虚により起こるので、補腎剤の八味地黄丸、牛車腎気丸や六味丸のほか、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯、薏苡仁湯、苓姜朮甘湯などを用います。

②冷え性には補温補血作用のある当帰芍薬散、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯、温経湯、苓姜朮甘湯などを用います。

③眩暈などの起立性調節障害には補剤や利水作用のある小建中湯、
半夏白朮天麻湯、当帰芍薬散、苓桂朮甘湯や四君子湯などを用います。

④妊娠掻痒症は熱証で起こるので、清熱作用のある温清飲、
三黄瀉心湯や黄連解毒湯などを用います。

⑤下腿静脈瘤は気血虚で起こるので、当帰芍薬散、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯や補中益気湯などを用います。

⑥切迫早産の塩酸リトドリン療法中に生じる頻脈や心悸亢進には、
当帰芍薬散や炙甘草湯などを用います。

⑦うつなどの神経症状には帰脾湯、女神散、半夏厚朴湯、
香蘇散や桂枝加竜骨牡蠣湯などを用います。

⑧産褥子宮復古不全に桂枝茯苓丸、乳汁分泌に葛根湯、
マタニティブルーに女神散、芎帰調血飲などがあります。

回答)村田 高明

 


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