漢方Q&A - 対応疾病⑰しつこい風邪(万年風邪症候群)に効きますか?
<質問>15歳の少女、1年のうち毎月のように風邪を引く。
ぐずぐずして治った頃にまた引くというような1年中風邪を引いている状態。
風邪薬を飲んでも余り効きませんし、胃をやられてしまいます。
朝は起きれず、貧血気味で、血圧もいつも100以下です。
体質改善しかないと思いますが、良い漢方薬はないでしょうか?
比較的若い女の方に多く、そのため学校や仕事に支障を来たす場合があります。
この様な年中風邪を引きやすい症状を西洋医学でも注目して、”万年風邪症候群”といいます。
風邪は色々な病気の初発症状に似ており、正確に診断しないと、
急性肝炎や急性腎炎の初期だったりする場合があります。
頭痛がする、熱が出た、喉が痛い等の症状を単一にとらえ、
頭痛薬だ、解熱剤だ、風邪薬だと言って安易に薬を飲むことは良くありません。
特にこの方のように風邪薬が効かない場合は、なおさらです。
普通、風邪を引いたときの症状を思い浮かべて下さい。
御存知のように、熱が上がって、頭痛がして、肩や頚が凝っています。
これが先ず最初に来る症状です。
もっと熱が高いと節々が痛く、腰も痛むということになります。
こう言う時は余り汗をかかないものです。
しかし、この方の場合はどちらかというと熱は余り高くなく、
喉が何となく痛く、寒気がすると言った傾向にあります。
いつの間にか喉のイガイガが消えて、いつの間にか咳、鼻水に変わっています。
ぐずぐずと長引く事が多いのです。
漢方の治療法を書いた原典は中国の漢の時代、2世紀頃とされていますが、
張仲景の書いた「傷寒雑病論」と言う本があります。
此の本の序文に一族200人余りが、ある時伝染病にかかって、
10年も経たない内に其の3分の2の人が死んでしまったと書いてあります。
そこで傷寒という病気の治療法を考えて此の本を著したとされております。
この伝染病とは現在ではチフスであろうと考えられています。
要するに急性熱性感染症の治療を説いた本だと言えます。
先程申しましたように風邪の初期症状は急性肝炎でも急性腎炎でも、
このチフスでも同じような症状を呈するのだということです。
其の傷寒とは、熱性の感染症に罹ったときに出てくる症状群と言ってよいでしょう。
体力の有る無しで細菌やウイルスが身体の中に入ってきた時に色々な症状を出します。
ある人は何となく熱感があるが高くはならず、寒気がして汗をかいていますし、
ある人は熱が出て、肩や頚が凝りが強く、悪寒がして、汗が出ない。
またある人は 高熱になって節々が痛く、腰も痛み、咳も少しし出した。
もっと熱が出て40度以上になると身の置き所がない位に身体が苦しく感じます。
この様に体調によっても出てくる早さや生体反応が違ってくる訳です。
傷寒という症状は体力があって汗をかかず、
病気に侵された時の強い反応とみて良いと思います。
病原体の強さによっても生体の反応が異なりますので、
熱や肩凝り、頭痛などの分かりやすい症状だけで判断をしてはならないわけです。
漢方では病気を陽病と陰病とに分け、各々をさらに3つの時期に分けて考えます。
風邪でもそうですが、始まりは太陽病という段階から入り、
中期の段階になると少陽病。
この段階ですと咳痰が出て、食欲がなくなり、口が不味くなります。
熱も朝は低く、夜高くなります。
もう少し進むと体全体が熱くだらだらと汗をかき、便秘傾向になったりします。
更に進むと太陰病には入り、お腹がはったり、下痢したりお腹が痛くなったりします。
更に進むと少陰病の段階に来ます。顔は青白く、熱があるのに手足は冷たい。
すぐ寝たくなる。何となく気力がないといった症状になります。
風邪は先ず太陽病から始まりますが、時に一気に飛び越えて少陰病から始まる風邪があります。
この方の場合がそうです。
漢方では直中の少陰と言いますが、ポンと最初から少陰病になる場合を言います。
寒い時期には結構良く見られます。
こういう患者さんは、いつもと違って寒い顔をして診察室に入って来ますので、
一目でこの風邪だと分かります。
これも初期には麻黄附子細辛湯が良く効きます。
早いと1~2回の服用で治ります。
体力を付け、体質を変えるためには、桂姜棗草黄辛附湯を暫く服用していると、
冷えが取り体力が回復し、風邪をひかなくなります。
回答)石川 友章