脳外科

漢方治療の対象となる頭の2大症状は、「疼痛(頭痛や三叉神経痛など)」
「眩暈(めまい)」であり、これらについて方剤選択のポイントを簡単に解説します。

しかし、どのような症状であれ漢方治療を選択する前に、
まず外科的治療が必要な疾患がないか否かを確認することは当然のことです。

頭部症状の漢方治療においても原則は他疾患と同様に、症状だけでなく、虚実(きょじつ)、
気血水、寒熱、病位(陽病か陰病)、腹診などを加味した上で方剤の選択が必要となります。

まず順序にこだわる必要はないのですが、頭部症状だけでなく
患者の全体の証をまず考えることが重要です。
それには患者が実証か虚証かを大別し、その後に種々の随伴証や徴候に着目するのが
便利かつ実践的な方法と考えられます。

「疼痛(頭痛や三叉神経痛など)」に対する漢方治療
例えばがっちりした体格で気力も充実した感じの人(実証)では、脈浮で熱っぽく、
比較的発汗も少なく、上半身の筋緊張や肩こりなどを合併していれば、
陽証の方剤である葛根湯がよく選択されます。

また陽証でも高血圧、のぼせ、不眠などがあれば黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の
適応となります。

一方、痩せていて見るからに気力に乏しそうな人(虚証)では、なんとなく熱っぽく
発汗も少ないような人なら桂枝人参湯(けいしにんじんとう)が使えます。

頭痛は表証とも捉えられるため、麻黄や桂枝などの生薬を含む感冒の初期に用いられる
薬が有効のことが多い点は覚えておくとよいと思われます。

また虚証で裏(内臓など)に冷えがあり、吐き気や胃腸虚弱などがある陰証の人には
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)がよく効きます。
呉茱萸湯は片頭痛の第一選択としても使える方剤であり、頓服で使用することもあります。
エキス剤1〜2包を温かい湯で服用すると比較的短時間で効果があるといわれています。

同じ陰証でも、特に四肢末端の冷えが特徴的であれば当帰四逆加呉茱萸生姜湯
(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)が適応となります。

虚証と実証の中間あたりの体力で、口渇、尿が出にくい、胃のあたりに
ちゃぽちゃぽと水の音がするなどといった水毒の徴候があり、
かつ、のぼせも訴えるようなら五苓散(ごれいさん)が有効です。
五苓散は水毒による諸症状、後半で解説する嘔吐やめまいに対しても多用される方剤です。

最近では外傷後の慢性期頭痛の原因ともなる慢性硬膜下血腫に対し、
五苓散や柴苓湯(さいれいとう)などによる治療も試みられています。

血液循環不良を漢方では瘀血(おけつ)と呼び、
体のバランス不良の重要な原因の一つと捉えます。

左右下腹部の圧痛(小腹急結)、舌下静脈怒張などを指標として判断します
(詳しくは寺澤の瘀血スコアー参照のこと)。

瘀血そのものから頭痛が起こるかどうかは不明でありますが、少なくとも
瘀血により気の異常が起こり、これが慢性頭痛となることは想像できます。

従って、瘀血を治す駆瘀血剤が適応となり、これにより気の異常も
同時に改善し頭痛が去ることも多くあります。

方剤としては、実証で便秘やのぼせを伴えば通導散を、実証で便秘と強いイライラ感などを
訴える場合には桃核承気湯(とうかくじょうきとう)を、特に便秘も目立たず
体力も中等度なら桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などが一般的に用いられます。

「眩暈(めまい)」の漢方治療
眩暈の治療では水毒、水滞を重視します。

前述した五苓散は利水剤の代表的な方剤で眩暈の治療に広く用いられます。
本剤の特徴は、水毒をさばく生薬が多数含まれており、浮脈で口渇があり、
尿が少なくて嘔吐もあるような例に適します。

また本剤には前述した桂枝も含まれるため、のぼせなどがあれば更によい適応となるでしょう。

眩暈患者では一般的に冷えが隠されていることも多い点が
方剤選択のポイントになることがあります。

胃腸が冷え、気が上衝し、動悸や心窩部の抵抗(心下痞鞕)があるような起立性の眩暈や
自律神経性の眩暈と診断される場合には苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)が
適応となります。

腹部全体に冷えがあり、低血圧体質で下痢を起こしやすく、下痢するとふらふらとした
動揺感が続く場合には真武湯(しんぶとう)が適応となります。

また、胃腸虚弱で冷えがあり胃内に水分が残りやすく心窩部に動悸を感じるような例には
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)がよい適応になります。

この様に眩暈で訪れる人には虚証、寒証が割と多く、方剤も虚証系の治療剤が多用されます。

和智 明彦

 


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